非登録の番号からの着信を受けないのが最も有効な詐欺対策

離れて暮らす親御さんがいる方は、是非親御さん宅の振り込め詐欺対策を考えて欲しい。私は実家で母親と暮らしているが、わずか10時間程度の外出中に、母が振り込め詐欺の被害に遭いそうになったことが、過去二回もある。しかも、二回とも私が帰宅後に事情を聴き、裏付けを取って説明するまで、完全に騙されて詐欺師の話を信じ切っていた。
母は振り込め詐欺について全く無知なわけではない。テレビや新聞で被害事例の話などを見聞きし、なんでそんな話を信じるのかと笑っていたほどだ。私も最初は理解できなかったが、母の話を聞いて分かった。
日常的にスマホを使っていると、スマホの進化に比べて電話機の進化のなさや、電話としての使い方の違いに驚く。スマホの場合は頻繁にやり取りする相手の電話番号やメールアドレス、メッセージIDを登録しておくのが当たり前だが、電話機の場合はそうした機能がないものもあるし、機能があってもおよそ使いやすいとは言い難い。スマホなら頻繁にやり取りする相手との連絡手段はメッセージが中心で、電話はおろか、メールすら使う頻度が減っている。スマホでも知らない相手からのメッセージやメールは来るし、詐欺やフィッシングなどのリスクもあるが、同時にリスクにかかわる情報も共有させるために、騙されたと気づくまでの時間は短い。一方、固定電話を主に使いづつけている世代は、電話が鳴れば相手が誰だかわからなくても取り合えず電話を取って話を聞くのが普通なのだ。
母は固定電話に着信があると、取ってしまう。ナンバーディスプレイ対応ではないので、相手が誰だか分からない状態で取ってしまうし、それが当たり前なのだ。スマホに慣れた私には考えられない感覚だ。私の感覚では知り合いとのやり取りはメッセージを使うし、込み入った内容でもメールで済むし、余程リアルタイムで話す必要があるものでないと電話などしない。なので、番号非通知の場合はもちろん、未知の番号から突然かかってきた電話など、まず取ることはない。取らなくても留守番電話に残されたメッセージで重要度は分るし、メッセージも残さないような相手はこちらから電話する必要すらないのだ。
また、80歳を超えた母は耳が遠く、相手の声から相手が誰だか分からない。分からないから、推測して相手の名前を言ってしまう。こうして、詐欺師はやすやすと母の近親者の名前を手に入れてしまうのだ。一旦そうなると、母も相手のことを全く疑わなくなってしまう。つまり、詐欺師からすれば相手が番号非通知の電話を取ってくれさえすれば、もう騙すことに成功したようなものだ。
もはや電話は、相手が誰だか分からない状態で受けるべきものではないのだ。私は二回目の詐欺未遂の後、母にiPhoneを持たせ、実家の固定電話にナンバーディスプレイ対応電話機を導入し、常に留守番電話モードにし、未登録の番号や、番号非通知の電話からの着信には出ないように、何度も言い聞かせている。それ以降、詐欺に脅かされることは全くなくなった。
80歳を超えてからでもiPhoneは使える。もちろん、若い世代のように色々な機能を使うことはできないかもしれないが、標準機能で文字を大きくできるから十分に見えるし、電話をかけたり、SMSを読んだりすることぐらいはできる。母にはiPhoneの前に老人向けのガラケーを渡したこともあったが、全く使えなかった。また、Android系は同一メーカーでも世代が変わると使い勝手がまるで変ってしまうので、老人には使いづらい。母は脳梗塞を起こして体が動かない状態で、iPhoneを使って私に電話で助けを求めてきてくれた。まともに話せなくてもそれだけで私は119番に電話して、母を救うことができた。
詐欺に会うと、経済的被害の大小とは別に、精神的なダメージがとても大きい。相手はプロなので騙されても仕方ないところはあるのだが、大抵の人は自分は大丈夫と思っていて、騙された後、無力感や罪悪感に苛まされる。電話がかかってきたり、ドアのベルがなる度に、怯えるようになる。
あなたの親がそんな惨めな状態陥ってしまうことを防げるのは、あなたしかいない。